子育てを支援する税額控除

最近ようやく税額控除(tax credit)のところまで勉強が進みました。税額控除というのは、課税所得に税率をかけて、暫定的な税額を計算したところから始まります。

基本的には暫定税額を直接どんどん引いていくだけなので、簡単なような気もします。しかし、一般事業税額控除(General Business Credit)のように、やや複雑な控除の上限を持つものもあります。ある計算ベースの何パーセントまで認めるというのもあれば、稼得所得控除(Earned Income Credit)のように暫定税額を引ききれない場合は、そのまま還付になるような、IRS にはあるまじき(?)太っ腹な税額控除もあります。

勉強していて気がついたのですが、アメリカの所得税法には、子育てを支援するような税額控除がたくさんあるのですね。日本の所得税法に対応するような優遇税制があるのか、私は知りません。ただ、昔、確定申告をやったときの記憶では、そんなにたくさん税額控除があったような記憶がないのですが・・・。そのいくつかを紹介しましょう。

子供と被扶養者の世話のための税額控除(Child and Dependent Care Credit)

これはすごくアメリカらしいと思うのですが、親が働きに出るために、子供の世話をするベビーシッターや家政婦さんを雇ったとき、その費用を一定額まで税額控除できる制度です。大雑把にいうと、納税者一人あたり、最大 $6,000 までの費用の 20% から 35%(一定所得で逓減) を税額控除できます。最大で $2,100 の税額控除です。

稼得所得税額控除(Earned Income Credit)

低所得層むけのの優遇税制です。実際、wikipedia によると、アメリカの最大の貧困対策政策であるようです。確かに、上で書いたとおり、暫定税額から引ききれない分については、還付になるというのですから、相当に気前のいい話です。

特筆すべきは、納税者が扶養している子供の数が多ければ多いほど、税額控除が多くなるという点です。税額控除の最大額は次の通りです。

子供なし $457
子供1人 $3,043
子供2人 $5,028
子供3人以上 $5,657

上の金額は調整総所得(AGI)の一定額を超えると逓減していきます。しかし、ここでも、子供が多いほど、その逓減に掛かる所得水準は高くなります。つまり、税額控除がとりやすいということです。

ちなみに、子供3人の納税者は、AGI が $16,420 まで、上の満額 $5,657 を税額控除として受け取ることができます。これってちょっとすごいですね。AGI $16,420 を持つ納税者は、ここから標準控除や人的控除(Exemption)を差し引くと、課税所得と暫定税額はゼロになると思われますので、$5,657 がまるまる還付されるはずです。1ヶ月あたり$471。アメリカ版「子供手当て」と言えそうです。

養子縁組費用税額控除(Credit for Adoption Expenses)

アメリカでは日本より養子縁組(adoption)に対する抵抗感がすくなく、日常的に行われています。政策的にもそれを支援するのがこの養子縁組費用税額控除です。

最大 $12,150 までの養子縁組に掛かった費用を税額控除できます。「費用の何パーセント」とかいうのではなく、100% 引けるというのですからすごいですね。しかも、今年引ききれなかった分は、向こう5年間繰り越すことができますから、最終的には全額、税額控除することができるのではないでしょうか。AGI によるフェーズアウトもありますが、その所得水準はかなり高いので、ほぼ全員が使えるでしょう。最大AGIが $220,180 達するまでは、少なくとも部分的にこの税額控除が適用されます。

子供税額控除(Child Tax Credit)

基本的に子供一人につき $1,000 を税額控除できるという制度です。これもなかなか太っ腹です。一定の稼得所得を持つ納税者については、還付も認められます。

その他

修正ホープ奨学金税額控除(Modified Hope Scholarship Credit)や生涯教育税額控除(Lifetime Learning Credit)を通じて、扶養する子供の教育費を一定限度まで税額控除できます。

これは事業者向けですが、就業時間中、従業員の子供の世話をする施設を用意した場合、そこで掛かった費用の一定割合が税額控除できます(Employer-Provided Child Care Credit)。従業員が直接受け取れる税額控除ではありませんが、これで雇用主が子供の養育施設を作ってくれたら、子育てが楽になりますね。

この他、税額控除ではありませんが、扶養する子供の数の分、人的控除(Exemption)が取れますね。一人当たり、$3,650 ですから、これに限界税率をかけた分が節税になります。

まとめ

こう見ると、税制面でアメリカの子育て支援は充実しているように見えます。日本の税制はどうなっているのでしょうか。正直、「子供手当て」などと大仰なことを言わなくても、稼得所得税額控除(Earned Income Credit)のような低所得者むけの税額控除を充実させるだけでいい気もします。一定所得以下の人たちには気前よく還付してしまうところなど、やや「負の所得税」的な性格も備えているような気がします。今日は、IRS という鬼の目にも涙を見た気がします。