消極的活動

米国所得税法の独特の考え方として、消極的活動(passive activities)という概念があります。簡単にいえば「ある事業に対して、投資家ほど身を引いていないが、積極的に経営に参加しているともいえない」というような中間的な性格を持った活動のようです。消極的活動から生じた純損失に非消極的な所得(積極的所得・ポートフォリオ所得)からは控除できず、控除できなかった部分は無期限に繰り越して、将来の消極的所得から控除できます。

Publication 925 (2009), Passive Activity and At-Risk Rulesに従ってお話をします。

消極的活動に関するルールが適用されるのは、次の主体です。

  1. 個人
  2. 遺産財団(estate)
  3. 信託(trust, ただし実質的に委託者に信託財産の権利が残っていると考えられる grantor trust を除く)
  4. 個人サービス会社(personal service corporation, PSC)
  5. 閉鎖会社(closely held corporation)

個人サービス会社では、医療・法律・エンジニアリング・建築・会計・保険数理・芸術などの分野のプロが対人的なサービスを提供します。正確な定義は IRS に譲ります。

閉鎖会社は、5人以下の株主が50%以上の所有権を持っているような会社です。

遺産財団・信託・PSC・閉鎖会社に共通するのは、個人的な色彩を強く持った主体、ということです。消極的活動ルールは、基本に個人に対して適用されるもの、と考えればいいでしょう。

さて、核心の消極的活動の定義を見てみましょう。

次のいずれか1つに該当しなければならない(OR)

  1. 通商・事業活動で、納税者がその年に実質的に参加(materially participate)していないもの。
  2. すべての賃貸活動(実質的に参加しているかどうかは関係ない)
    • ただし、業として不動産業を営む者を除く

実質的に参加、ってなんじゃい、ということですが、詳しくは Pub 925 を見ていだだくとして、趣旨としては、「定期的・継続的・実質的」に経営に参加しているかどうか、ということです。かなり厳格な基準です。

それより、問題になるのは、賃貸活動についてです。

賃貸活動については2つのポイントがあります。

  1. 不動産のプロによって行われる賃貸活動は、そもそも消極的活動に当たらない。積極的活動になり、そこからの所得は積極的所得になる。
  2. 不動産のプロでない場合、賃貸活動は、消極的活動になるのだが、積極的に参加(actively participate)(実質的に参加とは異なる!)している場合、ここから発生した純損失の一定の金額までは、非消極的所得から控除できる。

1. は消極的活動にならないので、消極的活動に関するルールは適用されず、2. は消極的活動ではあるが、非消極的所得との相殺は認められない、というルールに対する例外になっています。

それでは上の2つについて、詳しく見てみましょう。

不動産のプロによって行われる賃貸活動

この場合は、消極的活動にはなりません。では「不動産のプロ(業として不動産業を営む者)」の定義は何でしょうか。

不動産のプロとして認められるには、2つの条件を満たす必要があります。

  1. すべての通商・事業において納税者が行った個人サービスのうち半数超が、納税者が実質的に参加した不動産に関する通商・事業であった。
  2. 750時間超を不動産の関する通商・事業に費やした。

賃貸活動に積極的に参加した場合の特別控除

積極的参加というのは、実質的参加よりはゆるい基準です。一定の経営判断を下している場合、積極的に参加していると考えられます。たとえば、新しいテナントの承認、賃貸条件の決定、支出の承認、等々です。

積極的に参加できるのは基本的に個人だけです。(つまり PSC や閉鎖会社ダメだということですね)

賃貸活動に積極的に参加した場合、消極的活動からの純損失のうち、$25,000 までを非消極的所得から控除できます。(夫婦別々申告の場合は、同居していれば $0, 別居していたら $12,500 だそうです。なんだかよくわからないけど)

ただし、フェーズアウトがあります。このフェーズアウトは、ある所得を基準にして、$100,000 から $150,000 の間で起こります。つまり $150,000 以上だと、この特別控除はなくなってしまうのです。

「ある所得」といいましたが、これは修正 AGI と呼ばれるものです。ここでは、社会保障給付・IRA 積立金・シリーズEE国債等、Above the Line で控除できる多くの項目が認められません。そのため、AGI からこれらの Above the Line 控除を足し戻してやらなければなりません。

まとめ

上の話は Pub 925 のごく一部をかいつまんだだけです。サイゴンは最近すごい暑さです。頭が溶けそうなので、今日はここまで。