形式経済学(その2)

前回の続きです。形式会計学とは、「会計現象を厳密に定義することにより、簡潔かつ完全な会計現象の記述を目指す試み」です。

期間(periods)

仕訳(journal entries)は、歴史的なものです。つまり、ある特定の時刻に発生します。普通、会計学が問題にするのは、現在から見て、近い過去または近い将来における仕訳です。時間の流れは、連続的ですが、会計現象の経時的比較を容易にするため、これを等間隔の時間で区切ります。この1つの時間的区切りを期間(period)と呼びます。

期間の長さは、任意ですが、普通は、会計報告の目的によって定めます。一番よく使われる期間は1年です。しかし、アメリカの上場企業の SEC に対する報告書(Form 10-Q)のように、期間が3ヶ月であることもあります。

会計現象を考えるとき、中心的に考える期間を今期(current period)と呼びます。今期に対しては、普通 1 という添え字を当てます。来期は 2, 前期は 0 です。

これを数学的に表記すると、

p[0] 前期
p[1] 今期
p[2] 来期

となります。

集合のフラット化

集合のフラット化とは、次のような関数 F です。厳密な定義より、例を見たほうが早いでしょう。

F({{a, b}, {d, e}}) = {a, b, c, d}
F({{{a}, {b}}}) = {a, b}

つまり、関数 F は、与えられた集合に含まれる、非集合要素をすべて取り出して、それから成る集合を返します。

測定集合(set of measurements)

測定は、勘定科目と金額を持っています。仕訳は、測定の集合であり、かつ発生時刻を持っています。同じ仕訳に属する測定は、みな仕訳と同じ発生時刻に関連付けられるとしましょう。

いま今期(p[1])のすべての仕訳の集合 SJ を考えます。これは、この経済主体(economic entity)が今期に行った主な経済活動に対する完全な記録になっています。

仕訳の集合 SJ に含まれるすべての測定 SM は次のように求められます。

SM = F(SJ)

例を見たほうが分かりやすいでしょう。ある会社における仕訳の集合が次の通りであったとしましょう。2つの仕訳から構成されています。

SJ = {{(現金, $100), (売上, -$100)},
{(売上原価, $80), (現金, -$80)}}

仕訳の集合 SJ に含まれるすべての測定の集合は次の通りです。

SM = F(SJ) = {(現金, $100), (売上, -$100), (売上原価, $80), (現金, -$80)}

それほど難しくありませんね。

仕訳の集合を特に時間と関連付けて考えるとき、たとえば p[1] に属するすべての仕訳の集合を SJ[1] と書くことがあります。もし [1] が省略されている場合は、それは p[1] 期のものと考えます。

F(SJ) も同様に、p[1] に対して、SM[1] などと書くことがあります。p[1] に対しては単に SM と書くことができます。

ある勘定科目をもつ測定の集合

測定の集合 SM に対して、ある勘定科目だけ持つものを選び出して、新しい測定集合 Macc を作ります。勘定科目を acc とし、測定 x に対して、x.acc は「測定の勘定科目」を表すことにすると、

Macc = { x | x ∈ SM ∧ x.acc = acc}

これを短く、次のように書くことにします。

Macc = M(acc, SM)

測定集合 SM が、考察する測定空間のそのものである場合(当然の前提である場合)

Macc = M(acc) と書いてもよいことにします。

これに似た例ですが、測定の集合 SM に対して、ある勘定科目の集合 ACC に属する勘定科目をもつものだけ持つものを選び出して、新しい測定集合 Macc を作ります。

MACC = { x | x ∈ SM ∧ x.acc ∈ACC}

これも同様に、

Macc = M(ACC, SM)

と表記します。ただしこの場合、ACC は勘定科目ではなく、勘定科目の集合であることに注意してください。

集計量(aggregate)

会計報告の目的は、今期の測定の集合に対して、ある演算を実施し、必要な集計量を得ることです。

集計量の一例は、損益計算書(income statement)に現れる純利益(net income, NI) です。今期の純利益は次のように表されます。

今期の全仕訳の集合を SJ とするとき、全測定 SM を F(SJ) で定義します。

NI = benefit - cost
benefit = S(M(BNT, SM))
cost = S(M(CST, SM))
BNT コストであるような勘定科目の集合
CST コストであるような勘定科目の集合

あるいは次のように考えてもいいでしょう。

NI = S(M(ISA, SM))
ISA = BNT ∪ CST (ISA は I/S科目)

今日はここまで・・・。