形式会計学(その1)

私のメインブログでも書いたのですが、普段、財務諸表論を勉強していて、枝葉末節でつまづいている気がしてなりません。問題は、会計現象の表記(notation)が冗長すぎることです。

数値が絡む現象をきわめて厳密に表現した学問分野が数学です。会計学も、数学から学ぶべきものがあるのではないでしょうか。というわけで、車輪の再発明(reinventing the wheels)かもしれませんが、会計現象を厳密に定義することにより、簡潔かつ完全な会計現象の記述を目指します。

測定(measurement)

すべての会計現象は、質的側面と量的側面をもっています。

勘定科目(account)とは、会計現象の質的側面に着目して、その会計現象に与えられた分類名です。たとえば、現金(cash)、売掛金(account receivables)、棚卸資産(inventory)などです。

会計現象の量的側面は、金額(amount)によって計られます。「現金 $10,000」「売掛金 $3,300」「棚卸資産 $120,000」など。

測定(measurement)とは、ある会計現象を、勘定科目と金額によって、具体的に表現したものです。勘定科目と金額の組で表現されます。上の例で言えば、

(現金, $10,000)
(売掛金, $3,300)
(棚卸資産, $120,000)

などが測定の例です。測定は「形式会計学の原子」と呼んでいいほど、基本的な概念であるため、よく理解しておく必要があります。

測定が持つ金額は、「値(value)」と呼ばれることもあります。たとえば測定(現金, $10,000)の値は、$10,000 です。

測定集合の演算

測定の集合に対して、演算(関数)を定義しておきます。

S: N→R
N: 測定集合の集合(定義域)
R: 実数の集合(値域)

演算 S は与えられた測定集合に対して、各要素の値をすべて足しこんだものを値として返します。

たとえば、測定集合 M を次のように定義します。

M = {(現金, $10,000), (売掛金, $3,300), (棚卸資産, $120,000)}

このとき、

S(M) = 10,000 + 3,300 + 120,000 = 133,000

となります。

S は summation(合計) の頭文字です。Microsoft Excel の SUM 関数を思い出していただければいいでしょう。

勘定科目の2分類・5分類・7分類(大分類)

すべての勘定科目は、次の5つの集合のいずれかに属します。
(右側のアルファベット3文字は、集合名コード)

1. 資産(assets) AST
2. 負債(liability) LIA
3. 純資産(net asset) SHE
4. コスト(cost) CST
5. 便益(benefit) BNT

3. は企業会計では、株主持分(shareholder's equity)とも呼ばれます。

さらに、
4. は、費用(expense, EXP)と損失(loss, LSS)
5. は、収益(revenue, REV)とゲイン(gain, GAN)
分かれます。

伝統的な会計学では、普通は資産・負債・純資産・費用・損失・収益・ゲインの7分類を使います。しかし、費用と損失、収益とゲインは本質的に共通部分が多いので、それぞれ便宜的に「コスト」「便益」という和集合を作りました。

数学的に表現すると、勘定科目の全集合を ACC、空集合をφで表現するとき、

AST ∪ LIA U SHE U CST U BNT = ACC
Z = {AST, LIA, SHE, CST, BNT}
∀X, Y ∈ Z  X ∩ Y = φ

EXP ∪ LSS = CST
EXP ∩ LSS = φ

REV ∪ GAN = BNT
REV ∩ GAN = φ

最後に、2分類も紹介しておく。

1. I/S勘定科目 ISA = CST ∪ BNT
2. B/S勘定科目 BSA = AST ∪ LIA ∪ SHE

勘定科目の自然符号

勘定科目は大きく分けて、本来の性質上、正の金額と結び付くものと、負の記号に結び付くものに分かれます。

資産と負債は対照的な会計現象です。どちらを正の金額で表してもいいのですが、資産が与える積極的な印象を評価して、ここでは資産を正の符号で表現することにします。

たとえば売掛金の金額は、本来的に $100 のように正ですが、負債である買掛金の金額は普通 -$100 のように負数であらわされます。

こうした各勘定科目に自然に結びつく符号を、自然符号と呼びます。

自然符号は、大分類ごとに以下のように決まっています。

1. 資産(assets) AST +
2. 負債(liability) LIA -
3. 純資産(net asset) SHE -
4. コスト(cost) CST +
5. 便益(benefit) BNT -

これは資産を + と決めると必然的に導出される事柄です。

測定に正の数を与えることを、借方記入(debit)、測定に負の数を与えることを、貸方記入(credit)と呼びます。

仕訳(journal entries)

さて、測定自体は、ある状態を静的に記述したものにすぎず、それ自体に生命はありません。測定が2つ以上集まることにより、初めて現実の会計活動が表現されることになります。ある会計活動を表現するのに用いられる2つ以上の測定の集合を仕訳(journal entries)と呼びます。

仕訳 Jには重要な性質があります。

S(J) = 0

例をあげましょう。

たとえば、現金で $1,000 の売上げがあった場合、仕訳 J は次の通りです。

J = {(現金, $1000), (売上, -$1000)}

売上は、便益の一つであり、自然符号が負であることに注意してください。

$1000 + (-$1000) = 0 ですから、S(J) = 0 が成立していますね。

もちろん仕訳の要素数が3以上でもかまいません。次は、株式の時価発行に関する仕訳です。

J = {(Cash, $1000), (Common Stock, -$100), (Additional Paid-in Capital, -$900)}

やはり、S(J) = 0 になっています。

とりあえず今日はここまで・・・。