会計方法の選択(その2)

前回に引き続き税務上の会計方法の選択について考えます。

おさらい

簡単におさらいをしましょう。「読みやすさ最適化オプション」をオンにして、枝葉末節を切り捨てて、本筋だけ話します。

  1. 納税者は、現金主義と実現主義を選べるよ。混ぜて使うこともできるよ。
  2. でも、C会社は実現主義じゃないとだめだよ。
  3. でも、C会社の中でも小さい会社は現金主義を選んでもいいよ。

上の「小さい会社」の定義ですが次の通りです。

  • C会社が粗収益テストを満たすこと。

では粗収益テストとは何でしょうか。

粗収益テスト関数

いきなりですが、開始年 sy と閾値 th を引数に取り、真(true)・偽(false)を返す次のような関数 test_gross_receipt を考えます。
このとき、ある年 y における粗収益を r[y] と表現することにします。

def test_gross_receipt(sy, th)
   sy から当年までのすべての y に対して:
  (r[y - 2] + r[y - 1] + r[y]) / 3 <= th
end

今年は2010年だとする。そして、

r[2007] = 60
r[2008] = 90
r[2009] = 120
r[2010] = 150

このとき test_gross_receipt(2009, 130) は真になるでしょうか。

2009年に対するテスト:
(r[2007] + r[2008] + r[2009]) / 3 = 270 / 3 = 90
90 <=130 → true 

2010年に対するテスト:
(r[2008] + r[2009] + r[2010]) / 3 = 360 / 3 = 120
120 <= 130 → true 

対象期間のすべての年において、過去3年の粗収益の平均が 80 を超えていますので、
test_gross_receipt(2009, 80) は真です。

現金主義が使える C 会社の要件

元に戻ります。現金主義が使える C 会社の粗収益テストは、

  • test_gross_receipt(1986, $5,000,000)

です。あえて日本語で書けば「1986年以降に始まるすべての税務年度において、過去3年の粗収益の平均が $5,000,000 以下」です。

仕入と売上に現金主義を使ってよい場合

頭がごちゃごちゃになるので、いったん今日のこれまでの議論を忘れてください。ちょっと別の話をします。前回書いたとおり、原則として、モノの販売を行う人・企業は実現主義で仕入と売上を記録しなければならないのでした。棚卸資産というのは、仕入と売上を実現主義で記録したときに始めて認識する資産です。

このルール、C会社だけでなく、すべての個人・パートナーシップ・S会社にも適用されます。つまり個人が基本的に現金主義で会計を行っているときにも、少なくとも仕入と売上だけは、実現主義でやらなければならないのでした。

ところがやはり小規模事業者に対しては「難しいだろうから、現金主義でいいよ」と適用除外があります。この条件について考えます。
次のいずれかを満たす納税者は、仕入と売上を現金主義で計上できます。

  1. Revenue Procedure 2001-10 を満たす適格納税者
  2. Revenue Procedure 2002-28 を満たす適格小規模事業納税者

Revenue Procedure は IRC に次ぐ効力を持つ税法の施行細則であるようです。どうやら、IRS Publication は Revenue Procedure を噛み砕いて書いてあることが多いようです。

上の 1. の要件は次の通りです。

(AND)

  1. test_gross_receipt(1999, $1,000,000)
  2. タックスシェルターではないこと

Revenue Procedure 2001-10 は重要ですね。この規定のおかげで、ほとんどの小規模事業者で、すべての計算に現金主義が使えるようになります。

上の 2. の要件は次の通りです。

(AND)

  1. test_gross_receipt(2000, $10,000,000)
  2. IRC 448条で現金主義が禁じられていないこと。
  3. 主たる事業活動が適格事業であること。
  4. Revenue Procedure 2002-28 の下で現金主義計上ができなくなったという過去がないこと。

448条というのは、上でお話しした test_gross_receipt(1999, $5,000,000) というやつです。つまり、平均粗収益が $5,000,000 を超える C 会社には、Revenue Procedure 2002-28 は適用できないわけですね。

この適格事業の除外項目として、小売・卸売・製造業等があります。つまり普通に仕入売上計算に実現主義を使うことが期待されている産業を主たる事業活動にしている場合には、Revenue Procedure 2002-28 は適用できない、つまり現金主義は使ってはダメよ、ということです。なので、Revenue Procedure 2002-28 の適用先はあまりないような気がします。

まとめ

どうでしたか?ややこしいですね。

C会社以外では、現金主義と実現主義のどちらでもいいのです。ただしモノの販売をする人はその部分に関しては実現主義でやらなければならないのでした。ただし、Revenue Procedure 2001-10 と Revenue Procedure 2002-28 の例外規定があります。

C会社に関しては、原則は実現主義で、小規模なものだけ、現金主義が許されます。それでもモノの販売をする会社はその部分に関して実現主義でなければなりません。ただし、Revenue Procedure 2001-10 と Revenue Procedure 2002-28 の例外規定があります。

というわけでした。

実は、これと微妙に関係してくる他の話に統一資本化ルール(Uniform Capitalization Rule)というのがあるんですね・・・。うう、頭が痛い・・・。もし気が向いたら次回に書くことにします。