会計方法の選択

税務上の会計方法(accounting method)には、現金主義(cash method)と実現主義(accrual method)があります。現金主義は、現金の受け渡しを以て、収益と費用の発生を認識する素朴な会計方法です。より合理的だと考えられるのは、現金の受け渡しとは関係なく、収益が実現可能になったり、費用の経済的効力が発生した時点をもって、収益や費用を認識する方法です。これが実現主義です。

原則

現金主義は、合理性にやや欠けますが、直感的でわかりやすいです。実現主義は、より合理的ですが、理解にやや時間がかかりますし、帳簿はかならず複式簿記でつける必要があります。一長一短ですね。納税者は、最初に確定申告を行うときに現金主義か実現主義の好きな方を選択することができます。(IRS としては、なるべく実現主義で申告してほしいようですが、複式簿記の考え方が理解できない人も多いですから、強制はできないでしょう) これが大原則です。

折衷主義

会計方法の選択については、Pub 538 が詳しいです。面白いのは、 納税者は、現金主義か実現主義か、どちらか一方だけでなく、「この部分は、現金主義だけど、他の部分は実現主義」みたいな折衷主義(combination method)を取ることができることです。

ただし、折衷主義も無制限にできるわけではありません。次のような制約があります。

  1. 収益を現金主義で計上したなら、費用も現金主義で。
  2. 費用を実現主義で計上したなら、収益も実現主義で。

上の2つはなんだか同じことを言っているようですが、実は違います。逆が成立しないので、費用を現金主義にしたら、収益は実現主義でもいいのです。要するに、収益は現金主義だが、費用は実現主義、という組み合わせだけはダメだよ、ということですね。IRS から見たら、収益が実現主義なら、当年度に多めに収益が上がってくるのに対して、費用は現金主義だというなら、少なめに費用が計上されるというわけで、課税所得が増えてウマーということですね。さすが貪欲な IRS です。まあ、こんな変態的な会計方法を選択している人たちがどれくらいいるのかわかりませんが。

実は、もう一つ制約があります。

  • 商品を仕入れて販売をしたり、原料を仕入れて製造・販売を行ったりする場合には、所得の正確な計算のために棚卸資産を計上する必要がある。このときは、仕入と販売の計上に実現主義を使わなければならない(棚卸資産は実現主義で計上するという原則)。

ちょっとわからないのは、このとき仕入と販売にだけ実現主義を使い、他の場面では現金主義、というのはできるのかしら。理論的にはできなくもないですね。まあ、実務上は同じ帳簿の中の勘定科目をすべて現金主義で計上するか、あるいは実現主義で計上するか、どっちかでしょうけど。

C会社は実現主義が原則

はい、皆さんお待ちかねの楽しい税法の例外のコーナーです(笑)。税法の本質は、原則に対する例外ですから、これは楽しむしかありませんね。上で、納税者は、現金主義と実現主義を自由に選べると言いましたが、例外があります。

原則として次の実体(entity)は、実現主義を使わなければなりません。

  1. C会社(C Corporation)
  2. C会社をパートナーとしてもつパートナーシップ
  3. タックスシェルター

タックスシェルターって何だよ?って感じですが、どうやら、ケイマン諸島のようなタックスヘイブンに置かれたオフショア会社のことらしいです。

ここで確認しておきたいのは、個人・C 会社をパートナーとしてもたないパートナーシップ・S会社については、依然として会計方法の選択の自由が許されているわけです。売上の多寡には関係ありません。たとえ、あるパートナーシップに1億ドルの売上があったとしても、依然として現金主義でOKであるはずです。(まー普通はそこまで売上があったら、普通は実現主義にするでしょうけど)

上のルールにも例外があります。例外の例外ですね〜。売上の少ない C 会社は現金主義が許されます。(Pub の原文を直訳すると「禁止されているわけではない」と書いてあって、IRS の嫌々感が伝わってきますw)

正確にいうとこんな感じ。

次のいずれかの条件を満たす(OR)。

  • タックスシェルターを除くすべての会社・パートナーシップで、粗収益(gross receipt)テストを満たす。
  • 適格個人サービス会社 (Qualified Personal Service Corporation, PSC)

粗収益テストというのがやや面倒です。これは後で詳述します。
個人サービス会社というのは対人の専門的なサービスを提供する小規模な会社のことらしいです。ここの文脈で「適格」になるためには、95%以上の活動が本業に費やされていて、かつ、95%以上が特定の株主によって所有されている、という条件らしいですが、詳細は不明。かなりどうでもいい気がします。試験対策的には、なんとなく 95 という数字だけ覚えておけばいいような。

エントリが長くなってきたので、今日はここで終わりにします。あとでこのエントリを修正して追加するかもしれません・・・。

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