アメリカの社会保障制度と優遇税制

私は、いまアメリカの個人所得税の理解にとんでもなく時間がかかっています。自分の頭の悪さを呪う日々です。なぜこんなに時間がかかっているのでしょうか。

アメリカの個人所得税の理解が難しいのは、そこに膨大な所得不算入(exclusion)・所得控除(deduction)・税額控除(credit)が存在するからです。そのほとんどは、医療・年金・教育といった社会保障と関連しています。私は、アメリカの社会保障制度には詳しくありません。「○○という制度に優遇税制が適用される」と教科書に書いてあっても、それが何を意味するのかよくわからないのです。

こうした優遇税制の対象の一つに、適格貯蓄口座があります。基本的なパタンは、ある条件を満たした貯蓄口座があり、そこへの積立金が所得不算入になったり、所得控除できたりします。そこで発生した利息も非課税であることが多いです。ただし、その貯蓄口座からお金を引き出すときに、年齢や使途による制限があり、ルールに違反した場合は、内国歳入庁(IRS)に罰金を払わなければなりません。

日本では、10年ほど前に確定拠出年金の「日本版 401(k)」という制度ができました。これは、こうした適格貯蓄口座の一つであるアメリカの 401(k) プランをまねしたものです。確定拠出年金なので、加入者が自ら運用リスクを負うことになります。日本人は、あまりに自分の頭で考えて投資ポートフォリオを組むことに慣れていないので、まだあまりなじみがないかもしれませんね。

アメリカでは20年ほど前から、こうした適格貯蓄口座に人気があるようです。元祖は IRA(Indivisual Retirement Account)でしょう。その後、改良版の Roth IRA や教育版 IRA などが作られました。401(k)も、wikipedia を見る限りけっこう古いですね。

面白いのは、医療費に備える適格貯蓄口座があることです。MSA(Medical Saving Account) や HSA(Health Saving Account) がそうですね。アメリカというのは恐ろしい国で、医療費がめちゃくちゃ高いのに、老人や障害者向けを除いて基本的に公的な健康保険がありません。しかも、こうした医療保険は保険金支払いに際して、免責金額があり、少額の医療費は払い戻ししてくれないのです。そこで、免責金額に達しない医療費に備えるための適格貯蓄口座として MSA や HSA が作られたのでした。

HSA では会社が福利厚生として、積立金を払ってくれることもあり、この金額は総所得に算入しません。自分で払う場合も、AGI(Adjusted Gross Income)の手前(above the line)で控除できます。IRA は、積立金を AGI の手前で控除できます。Roth IRA は、積立金の所得控除はありませんが、利息は非課税です。

不思議なのは、401(k) プランなのですが、どうも IRS Publication を探してもよくわかりません。原典の IRC401条を読めば、深く理解できるのでしょうけど、これがまたやたらに長い条文なので、面倒です(でもアメリカの税法の条文は、日本の税法の条文よりずっと読みやすいですよ。インデント(字下げ)がしっかりしているので、まるでプログラミング言語の記述みたいです)。401(k) と IRA の比較表とかもありますが、それでも 401(k) と IRA の関係ってよくわからないですね。なぜか Wiley とかにはぜんぜん 401(k) に関する記述がないんですよね〜。せめて、401(k) に積立を入れるときの積立金は、所得不算入なのかどうかはっきりさせてほしかった。(でも 401(k) への積立分は所得税源泉徴収はおこなわないそうですから、たぶん所得不算入ですね)

税法というのは、社会を映す鏡です。アメリカ税法からは、アメリカ社会の現実が浮かび上がってきます。アメリカ社会に詳しくない日本人にはなかなか理解しづらいですが、毎日少しずつ進んでいくしかないですね。とほほ。