Ruby で学ぶアメリカ税制 - パートナーシップへの現物出資

ようやく個人所得税の学習が終わり、パートナーシップ関係の課税について勉強できるようになりました。やったあ。

パートナーシップというのは、2人以上のパートナーが出資して作られる営利の事業体です。会社の簡易版みたいなものと考えればいいでしょう。

今日のお話は、パートナーがパートナーシップへ現物で出資した場合、受け取ったパートナーシップ持分(会社でいえば株式のようなもの)の税務簿価(basis)をどう計上するか、です。

Publication 541 (04/2008), Partnerships が大いに参考になります。

以下パートナーシップを PS と略します。長いので。

原則として、受け取った PS 持分(interest in partnership)の税務簿価は、パートナーが出資した資産の税務簿価とします。このときに損益は認識しません。

まあ、これで話は終わらないんですけどね・・・ほら、私たちのにくたらしいかわいい税法ちゃんだから。

実は、パートナーが現物出資をしたときに、利益を認識しなければならないときがあります(損失は認識しません)。それはどういう場合かというと、現物出資したものに、負債がくっついていて、それも PS に負わせる場合です。

たとえば、パートナー Q が次のような不動産ローン(mortgage)付の建物を PS に現物出資して、見返りに 20% の PS 持分を受け取ったとします。

調整税務簿価 $4,000
不動産ローン $6,000

建物の公正市場価格は出ていませんが、実は、PS への現物出資にあたり、これはまったく関係ないのです。なので無視。

ここで、税法はちょっと面白い考え方をします。

建物の現物出資は、Q の PS 持分の税務簿価を増やします。ところが、Q が PS に押し付けた負債は、パートナー全員で負担すると考えるのです。この場合 100 - 20 = 80% の残りのパートナーは $6,000 x 80% = $4,800 の負債を負担します(実際、$4,800 の新たな出資をした、と考えます)。Q からしてみると、$6,000 x 20% = $1,200 の負債は依然として負担しなければなりませんが、もともと $6,000 あった負債が、$1,200 に減ったわけですから、この点に関しては、$4,800 のキャッシュを受け取ったのと同様の効果です。実際、PS からの出資金の返戻と考えて、Q にとっての PS 持分の税務簿価を減らします。

結局、

Q の PS 持分の税務簿価の増分 $4,000  
Q の PS 持分の税務簿価の減少 $4,800
----------------------------------------------------------------------
Q の PS 持分の税務簿価    $-800

ですが、Q の PS 持分の税務簿価 はマイナスになることはないので、この場合ゼロになります。

一方で、Q は「PS 持分の売却または交換による利益」として、$800 を計上しなければなりません。PS の売却益とは不思議ですね。このとき、Q の PS 持分はゼロになってしまいますから、全部 PS 持分を売ってしまったのと同じです。調整税務簿価 $4,000 の建物を手放して、$4,800 の債務免除を得たのですから、$800 得しています。そこで、これをQの PS 持分の売却益と考えるわけです。なんだか不思議な感じですね。

基本的に話はこれだけなんですが、以下蛇足です。

以前、同種財産の交換取引のお話をしました。ここでは、

  • 引き渡した財産 Gの調整税務簿価 gb
  • 引き渡した財産 Gの公正市場価格 gf
  • 受け取ったブート b

という3つの変数が出てくるのですが、今回の話で、

  • Q による出資現物財産の調整税務簿価 => gb
  • Q の債務免除額 => gf, b

と考えて、売却益 g を求め

rb = gb + g - b

の公式を使うと、上の rb が Q の PS 持分の税務簿価になるということに気がつきました!不思議!

同種財産の交換取引のプログラムを再掲します。

def gain_on_like_kind_exchange(gb, gf, b)
  # no boot or boot has been given
  if b <= 0
    return 0
  else # give has been received
    # never recognizes loss here
    adjusted_realized_gain = [0, gf - gb].max
    return [adjusted_realized_gain, b].min
  end
end

def main
  gb = 4000
  gf = 4800
  b = 4800
  g = gain_on_like_kind_exchange(gb, gf, b)
  puts "case1: recognized gain = %d, rb = %d" % [g, gb + g - b]

  gb = 4000
  gf = 3000
  b = 3000
  g = gain_on_like_kind_exchange(gb, gf, b)
  puts "case2: recognized gain = %d, rb = %d" % [g, gb + g - b]
end

main

実行結果は、

case1: recognized gain = 800, rb = 0
case2: recognized gain = 0, rb = 1000

となります。

case 1

Q による出資現物財産の調整税務簿価 $4,000
Q の債務免除額 $4,800

これは上で述べた例ですね。実際、売却益は $800, Q の PS 持分の税務簿価は 0 になります。

case 2

Q による出資現物財産の調整税務簿価 $4,000
Q の債務免除額 $3,000

のケースです。これは、不動産ローンが $3,750 (* 80% = $3,000) のときの数字になります。この場合、Q は $4,000 - $3,000 = $1,000 だけ PS に出資したことになり、PS 持分の税務簿価は $1,000 になります。損失は認識しません。上で計算が正しいことを確認してください。

まとめ

PS への現物出資の結果得た持分の税務簿価の計算に、同種財産の交換取引の計算式が使えるというのは、なかなか不思議ですね。これは偶然の一致なのか、それとも必然なのか。よくわかりませんが、アメリカ税法の奥深さを感じた一日でした。