1933年証券法と1934年証券取引法

会計士が不法行為による賠償責任を負うケースとしては大きく分けて二つの場合があります。

  1. コモンローによる責任
  2. 制定法による責任

コモンローによる賠償責任には、

  1. 契約違反
  2. 過失
  3. 詐欺

の3つがあります。

制定法による賠償責任で有名なのは次の2つです。

  1. 1933年証券法(Securities Act of 1933)によるもの
  2. 1934年証券取引法(Securities Exchange Act of 1934)によるもの

これらは 1929年のニューヨーク証券市場における大暴落を受けて、投資家保護のために作られた法律でしょう。違いは、1933年法は、州境を超えて一般投資家に売り出される証券を規制するものであるのに対して、1934年法は証券取引所で取引される証券を規制します。1933年法で規制されるのは、証券のライフサイクルの一番始めだけですが、1934年法は証券取引所に上場する限り規制を受けることになります。

会計士がこれらの法との関連でなぜ責任を問われるかというと、規制当局に登録するときに、会計士の監査済みの財務諸表(F/S)を提出するからです。この F/S に重大な虚偽表示や重大な事実の省略が含まれているとき、第3者に賠償責任を負う場合があります。

1933年証券法

まず、1933年法を見てみましょう。

この場合、提訴できるのは、証券を買った人たちです。(売った人たち=証券会社(?)は提訴できません)

原告(P)が被告(D)に対して、立証すべき項目は次の2つだけです。

  1. P は損害を受けた。
  2. 登録文書(registration statement)の F/S に重大な虚偽表示または省略がある。

この2つの項目が立証されると、立証責任は被告 D に移ります。D は、次のいずれかを証明すれば、責任を逃れることができます。

  1. due diligence があった。合理的調査の後、F/S に虚偽表示がないと信じる合理的根拠があった場合です。
  2. P は証券を買ったとき F/S が誤っていることを知っていた。
  3. P の損害と F/S の虚偽表示との間に因果関係がない。
  4. GAAS に従っていた。

基本的に、これは過失責任の立証に近いですね。ただし原告の立証責任が大幅に緩和されています。会計士が注意義務を果たしていたかどうか立証するのは、原告ではなく被告の責任になっています。会計士にとってはかなり厳しい内容だと言えましょう。

1934年証券取引法

Wiley には 10条による責任と18条による責任の両方が載っています。ただし、試験に普通出るのは、10条のほうらしいので、ここでは10条だけを取り上げます。

提訴できるのは、証券を買った人と売った人の両方です。これは1933年法とは違いますね。

原告が立証すべき項目が次の通りです。

  1. 州境を超える取引で証券の売買に伴う損失が発生した。
  2. F/S に重大な虚偽表示または省略があった。
  3. P は F/S を正当に信頼した。
  4. D には scienter(悪意)があった(または徹底的な真実の無視(reckless disregard of the truth)があった)。

よく見ると、これはコモンローの詐欺の成立要件とそっくりです(というか同じ?)。実際 1934年法第10条は、詐欺防止条項(antifraud provision)と呼ばれているようです。なんでコモンローに良く似た条項を制定法の形で作ったんでしょうか・・・詳細は私にはいまのところわかりません。

まとめ

よく考えると、1933年法と1934年法の両方の規制を受ける証券というのがありそうです。この場合証券を買って被害を受けた人はどちらの法を使ったらいいのでしょうか?

会計士の責任の問いやすさでいうと、1933年法は過失責任よりさらに簡単、1934年法第10条は詐欺と同等でやや難しい、ということで、原告はおそらく証券が売り出された直後なら 1933年法、そうではない場合 1934年法を使うということなのかもしれません。

会計士もこういう一般投資家向けに証券を売り出すような会社に対しては、高い監査料金が取れるのでしょうが・・・。やはりリターンを得るにはリスクを取る必要がある、ということなのかもしれません。