会計士が過失責任を負う相手は誰か?

あなたは USCPA で、A 社の財務諸表(F/S)を監査しました。実は F/S には重大な虚偽表示が含まれていたのですが、あなたはそれに気が付かず、適正意見(unqualified opinion)を表明してしまいます。悪いことに A 社はまもなく倒産してしまいました。問題の F/S の適正意見を信頼して A 社に対して信用を供与した B 銀行と納入業者の C 社はカンカンに怒って、あなたを訴えようとしています。もし、あなたの監査に過失があった場合、あなたは誰に対して責任を負うでしょうか?

これは会計士にとっては切実な問題ですね。

会計士が過失責任を追うべき相手に関しては、3つの考え方があります。

  1. 会計士と契約関係にある者に対してだけ負う(Ultramares doctrine)
  2. F/S をほぼ確実に使うだろうと会計士が考えていた人たち(foreseen party)に対しても負う。
  3. F/S を使うかもしれないと会計士に予見可能であった人たち(foreseeable party)に対しても負う。

さて答えはどれでしょうか?

多数意見では、2. の foreseen party に対してのみ責任を負う、とされています(もちろん、契約関係にある人たちにも責任を負います)。

foreseen party と foreseeable party はどちらも会計士とは契約関係にはない人たちです。両者はどうやって区別するのでしょうか。ここらへんはわざとぼかしてあるのかもしれません。実務的なガイドラインがあって、現実の経済状況の変化に伴って少しずつ改定していくのでしょう。

Wiley の例題によると、たとえば銀行は、F/S を見て融資の可否を決めることが会計士には、確実にわかっていたはずだから、foreseen party に入るとのことです。このとき、特定の銀行名が会計士の念頭になくてもよく、銀行というクラスのユーザーには使われることを予見していれば十分とのこと。つまり、B 銀行という具体的な銀行に使われることを知らなくても、どこかの銀行に使われるだろうと予見していれば、B 銀行は、会計士にとっての foreseen party になるとのことです。

その一方で、上の C 社は単に foreseeable party に過ぎず、foreseen party にはならないとのことです。会計士は C 社、または広く A 社の納品業者に F/S が使用される可能性があるとは知っていても、確実に使われるかどうかまでは確かではなかったということですね。

契約関係にある人は、foreseen party だし、foreseen party は foreseeable party だと考えられます。集合の包含関係ですね。

  • 契約関係にある人の集合(party in privity of contract) ⊂ foreseen party ⊂ foreseeable party

上の答えとしては、あなたは、A社と B 銀行に対しては過失責任を負うが、C 社に対しては負わない、ということになります。(アメリカでは、ビジネス法は州ごとに違いますから、州によっては異なった結論になることもあります。あくまでも多数意見(majority rule)では、こうなる、という話です)

会計士が、実際に訴えられたとき、たとえば相手がたんに foreseeable party なら、会計士に過失責任は問えないよ、という抗弁ができるわけです。

ところで、過失に並ぶコモンロー上の不法行為である詐欺に対する責任では、契約関係の有無は関係がありません。したがって、相手が foreseeable party であっても、会計士の詐欺責任を問うことはできるのです。

なかなか奥が深いですね。税法よりよほどましです。ではまた〜。