1933年連邦証券法の登録義務免除

1933年連邦証券法の立法趣旨は、潜在的な投資家に対して、証券の発行に関する重要な情報の開示を徹底させることにより、投資家が投資の是非について賢明な判断が下せるようにしようというものです。(1929年のニューヨーク証券市場の大暴落の反省に基づいています)

Securities Act of 1933 - Wikipedia, the free encyclopedia

この記事によると、1933年法の精神は「日光こそ最良の消毒剤である(sunlight is the best disinfectant)」だそうです。かっこいいですね〜。ひいてはアメリカ人の精神に通じるものがある気がします。

1933年法においては、原則として証券の売り手は、証券に関する情報を登録文書(registration statement)の形で連邦証券取引委員会(SEC)に登録し、許可された後でなければ、証券を売ることができません。非常に厳しいですね。

私はやったことがないわかりませんが(笑)、この SEC への登録文書は極めて詳細に渡っており、登録者にとっては重い負担であるようです。実際の仕事は弁護士や会計士がやるのでしょうが、彼らへ払うお金は馬鹿になりません。そのため、証券を発行する会社が小さかったり、販売価額が小額である場合に、この大変な公式の登録文書の登録を免除する条項が用意されています。

この点、Wiley の解説は残念ながらわかりやすいとは言いがたいです。むしろ上の Wikipedia の解説のほうがわかりやすいですね。

1933年法で、登録義務免除の対象となる取引は wikipedia によると次の通りです。

  • Section 3(a)(11) 州内部での取引.
  • Section 3(b) 小額の証券発行で、投資家保護のために登録が必要ないと考えられるもの。SEC に発行価額 $5,000,000 までの裁量を授権しています。
  • Section 4(1) 一般投資家(発行会社・引受会社・仲介会社以外の人たち)の取引
  • Section 4(2) 私募。広く一般に向けて売り出すものではないもの。
  • Section 4(6) 認定投資家(銀行・保険会社などの機関投資家や裕福な個人)

実はこの文章を半分以上書き上げたときに気がついてショックだったのですが、実は SEC の Q&A が非常によくまとまっていて、わかりやすいです。

Q&A: Small Business and the SEC

以下それを参考にして書いていきます。

重要な免除項目

試験によく出る免除項目に、

  • Regulation A
  • Regulation D
    • Rule 504
    • Rule 505
    • Rule 506

があります。これらは SEC 作った規則(日本で言えば省令のようなもの)なのですが、Wikipedia によると、このうち

  • Regulation A, Regulation D(Rule 504, 505) ← Section 3(b)
  • RegulationD(Rule 506) ← Section 4(2)

という感じで 1933年法から授権されているようです。

テクニカルな話ですが、たとえば Rule 504 の 504 という数字はどこから来たのでしょうか?実は、アメリカでは国家機関が作った規則はすべて、統一的にコード化(codification)されており、これは Code of Federal Regulation (CFR)と呼ばれています。Rule 504 は正式には、

  • Title 17 of the Code of Federal Regulations, part 230, Sections 504

であり、17 C.F.R §§ 203.504 と表記されます。

1933年法の Regulation A とは、実際には

  • 17 C.F.R. §§ 230.251 to 230.264

であり、Regulation D は、

  • 17 C.F.R. §§ 230.501 to 230.508.

になります。

実際の条文は、アメリカ政府のウェブサイト

Code of Federal Regulations

で確認することができます。

Regulation A と Regulation D Rule 505 はどう違う?

前置きが長くなりましたが、具体的な内容を見ていきましょう。Regulation A と Regulation D (Rule 505) を取り上げてみます。基本的にはどちらも、向こう12ヶ月以内、$5,000,000 以下の証券発行を略式の手続きだけで許可する規定です。Wiley を何度読んでも違いがよくわかりませんでした。というか Regulation A のほうがいろいろ有利な気がするんですけどねえ・・・なんで Rule 505 があるのでしょうか?

Regulation A

基本的にこれは簡易版公募とのことです。12ヶ月の期間における $5,000,000 までの証券発行に関して次の条件を満たしたとき、登録が免除されます。

  1. SEC に通知すること
  2. 案内状(offer circular)はオファーを受ける人に提供すること。これに含まれる財務諸表(F/S)は監査済みでなくてもよい。

案内状(offer circular)は、目論見書(prospectus)に似ていますが、ずっと簡略化されたものです。こうして発行会社の負担を抑えているわけですね。

あと Rule 505 との大きな違いは、証券の購入者は転売の制限がないという点です。証券の購入者は自由に証券を転売できます。

Regulation D (Rule 505)

Regulation A とは対照的に、これは私募に近いですね。12ヶ月の期間における $5,000,000 までの証券発行に関して次の条件を満たしたとき、登録が免除されます。

  1. 公募しないこと
  2. 35人以下の非認定(unaccredited)投資家と無制限の認定投資家(銀行・保険会社等の機関投資家と裕福な個人)に対して販売すること
  3. 最初の販売後 15日以内に SEC に通告すること

裕福な個人というのは、純資産が $1,000,000 超、または過去2年の純所得が $200,000 超の人たちです。

この場合、買い手は最低1年(Wiley によると2年)は転売が制限されます。(転売するときには、SEC への登録が必要になります)

また売り手は、もし非認定投資家に販売するならば、監査済の財務諸表を当該投資家に提供しなければなりません。

・・・こうやって見ると、免除される上限は同じ $5,000,000 なのに、どう考えても Regulation D (Rule 505) のほうが、いろいろ条件がついて面倒に見えるのですが・・・。なんで皆 Regulation A でやらないんですかね。たぶんもっと詳細に調べていけば、理由が理解できるのでしょうけど。

Regulation D(Rule 504, Rule 506)

では残りの Rule 504 と Rule 506 を見てみましょう。

Regulation D(Rule 504)

12ヶ月間に $1,000,000 まで登録なしに証券の販売を許す条項です。

原則として、公募はできません(このとき購入者の数に制限があるのか等は残念ながら私にはわかりません)。

また証券の購入者には転売が制限されます(転売の際は、SEC への登録が必要です)。

しかし例外があります(そして例外のほうが重要です)。

次のいずれか1つの条件を満たすとき、公募することができ、かつ証券の購入者に転売の制限がありません。

1. 登録文書の登録を義務付けている、1つ以上の特定の州においてのみ募集を登録し、それらの州が義務付ける開示文書を投資家に届けた
2. 登録文書の登録を義務付けている州で登録・販売し、また義務付けていない州でも販売をし、すべての投資家に対して、登録した州が義務付ける開示文書を投資家に届けた
3. 公募を許可する州の登録免除規定に従って、認定投資家へ販売するとき

つまり、州で登録していたら、連邦レベルの手続きが免除してやろうという趣旨ですね。認定投資家に対しては、州レベルの登録さえ省くことができる可能性があります。

Rule 504 に従うかぎり、連邦レベルの投資家への開示義務はありません。ただし詐欺防止条項は適用されるので、それに該当しないように十分な情報を投資家に提供する必要はあります。つまり、投資家に提供する情報は、偽りやまぎらわしい表現、省略などを含んでいてはならないということです。

よ〜くわかりました。さすが SEC。IRS Publication がわかりやすかったのと同じ印象です。

Regulation D(Rule 506)

同じ Regulation D でも Rule 504, 505 の権限が 1933 Act Section 3(b) の「$5,000,000 までの SEC 裁量権」に由来するのに対して、Rule 506 は 1933 Act Section 4(2) の「私募」の規定のセーフハーバーとして作られたようです。つまり Section 4(2) は「私募なら登録免除」と定めたのですが、実際は、何が私募なのか、という点で、争いが多く起きてしまったようです。そのため SEC は「これだけやっていれば、私募とみなす」という具体的な規定を含んだ条項をあらためて作ったわけです。

これは Section 3(b) の定めによるものではありませんから、販売できる証券の金額に上限はありません。基本的にこの条項が適用される条件は Rule 505 と類似していて、

  1. 公募はできない
  2. 任意の数の認定投資家へ販売できる
  3. 35人までの条件付非認定投資家へ販売できる
  4. 認定投資家への情報の提供は任意である(ただし詐欺防止条項は守らなければならない)ただし、非認定投資家へは完全な情報開示(監査済財務諸表を含む)を行わなければならない
  5. 購買者は証券の転売に関して制限を受ける。

となります。Rule 505 とほとんど同じですが、異なるのは「条件付非認定投資家」という部分です。何が条件付かといえば、非認定投資家と言っても、まったくタダの人ではだめで、金融の事業内容に関して十分な知識と経験を備えた「洗練された投資家」でなければならない、ということです。

とはいえ、誰が「洗練された投資家」なのかこれだけでは不明なので、おそらくさらに細則がどこかに定められていると私は推測します(そこまで裏を取る気力はさすがにない・・・)

魔の Section 4(6)

これは試験にはまず出そうもないのでシカトしてもいいと思うんですが、1933 Act Section 4(6) は、認定投資家に対する $5,000,000 までの証券の販売について登録を免除しています(公募はできない)。じゃあ、Rule 505 はどうなるの??という感じですよね。Rule 505 の認定投資家に対する規定は Section 4(6) をそのまま書き写したものなのかもしれません。そうすると Rule 505 で一番肝心なのは 35 人までの非認定投資家を認めた部分で、法的権限は Rule 506 同様 Section 4(2) 「私募」に由来するのかもしれません。というか、Section 4(2) と Section 4(6) のハイブリッドなセーフハーバーなのかな?う〜ん。SEC のドキュメントにもそこまで書いてありませんでした・・・。

まとめ

調べても調べても、最後まですっきりしない、徒労感にあふれる調査の旅でした。独断と偏見で私は次のように(強引に)まとめてしまいます。

  • Regulation A は登録のミニ版。本格的な登録をして公募をかけるつもりの会社が全面的な登録費用負担を負わずに、まずお試しとして使える制度。
  • Regulation D の3つのルールは基本的に認定投資家 + 私募のハイブリッドなセーフハーバー。つまり根拠になるのは Section 4(2) と Section 4(6)。ただし、Rule 504 では州レベルの登録を行った取引について公募と同様の扱いをしている。

みなさんは、どう思いますか?上のまとめは私の勝手な妄想ですから鵜呑みにしてはいけません(笑)。いやあ、ややこしいですね〜。では次は1934年連邦証券取引法あたりでお会いしましょう。