Ruby で学ぶアメリカ税制 - 非自発的変換

ある財産の破壊・盗難・収用などの理由により、その財産をやむをえず手放し、代わりに金銭やその他の財産を入手することを非自発的変換(Involuntary Conversion)と呼びます。このとき、原則として実現した利益はそのまま認識します(1年を超えて保有した事業用資産や投資用資産などは、1231条の対象になるはずです)。 しかしながら、一定の期間のうちに、類似財産(property similar or related in service or use)を購入することにより、利益の認識を繰り延べることができます。ちなみに類似財産は同種財産(like-kind property)より認められる範囲が狭い厳格な概念であるようです。

ここにある財産 X があったとします。この調整税務簿価は xb でした。ところがある日、非自発的変換を受けることになります。その結果、xr の価値を持つ財産に変換されたとしましょう(普通は現金に変わるのかもしれません)。その後、ある価額 yp で代用の類似財産 Y が購入されます。ここでの問題は、認識すべき利益の決定です。

Yの新しい税務簿価 yb は自動的に元の財産 X の調整税務簿価 xb になります。ここで、認識すべき利益は・・・と説明したいところですが、面倒なので下のプログラムを見てください。

# xb 財産 X の調整税務簿価
# xr 非自発的変換後の価値
# yp 代用の類似財産 Y の購入価額
def gain_on_involuntary_conversion(xb, xr, yp)
  gain = xr - xb
  # loss is recognized as is
  if gain < 0
    return gain
  end
  return [gain, [0, xr - yp].max].min
end

def main
  xb = 100
  xr = 150
  yp = 180
  puts "case1: recognized gain = %d" % gain_on_involuntary_conversion(xb, xr, yp)

  xb = 100
  xr = 150
  yp = 110
  puts "case2: recognized gain = %d" % gain_on_involuntary_conversion(xb, xr, yp)

  xb = 100
  xr = 150
  yp = 80
  puts "case3: recognized gain = %d" % gain_on_involuntary_conversion(xb, xr, yp)

  xb = 100
  xr = 90
  yp = 120
  puts "case4: recognized gain = %d" % gain_on_involuntary_conversion(xb, xr, yp)
end

main

このプログラムの出力結果は、

case1: recognized gain = 0
case2: recognized gain = 40
case3: recognized gain = 50
case4: recognized gain = -10

となります。

case 1

入力

xb = 100
xr = 150
yp = 180

出力

case1: recognized gain = 0

基本的に、非自発的変換されて実現された価額 xr が現金だと考えて、これを使い切るかどうか?という視点で考えるとわかりやすいです。この例では xr < yp ですから、xr = 150 を使い切ってもまだ代用の類似財産 Y が買えません。この例では、認識利益はありません。

case 2

入力

xb = 100
xr = 150
yp = 110

出力

case2: recognized gain = 40

非自発的変換の実現価額 xr で代用財産 Y を買うと、40のおつりがきます。非自発的変換の実現利益が 50 ですから、この 40 はそのまま税法上の認識利益になります。

case 3

入力

xb = 100
xr = 150
yp = 80

出力

case3: recognized gain = 50

非自発的変換の実現価額 xr で代用財産 Y を買うと、70のおつりがきます。しかし、非自発的変換の実現利益が 50 ですから、この金額を超えて利益を認識することはありません。この 50 全額が税法上の認識利益になります。

case 4

入力

xb = 100
xr = 90
yp = 120

出力

case4: recognized gain = -10

非自発的変換で損失が実現している例です。この場合は、この実現損失がそのまま認識損失になります。代用財産 Y の購入は関係ありません。

まとめ

基本的な考え方は、非自発的変換で得た財産を使って、代用財産を買ったとき、おつりがきたらそれに課税しよう、という考え方です。たしかに、納税者から見れば自然な考え方かもしれません。いくら非自発的変換で利益を得たといっても、別に好きでやった取引ではないわけで、代用財産を手に入れて原状回復ができればいいわけです。そのとき、非自発的変換で得た財産を使い切っていれば、課税はなし、残っていたら課税されても仕方ない、というのは感覚的にはしっくりきます。もしそうでなければ、非自発的変換で得た財産を代用財産の入手のために使い切っているのに、キャピタルゲインに対して課税されるというのはちょっと頭にきますよね。でも、個人的にはそういう納税者の「皮膚感覚」ではなくて、全体の税制上の整合性を維持してほしい気もします。まあ、税制というのはひどく泥臭いものですから、望むべくもないかもしれませんが。