担保付取引
UCC Article 9 は担保付取引(secured transaction) について述べています。担保権は、債務者が設定し、債権者が取得します。債務者が不履行に陥った場合、債権者は、担保物件を取得し、それを売却して、その代金をもって債権の回収を行います。
UCC Article 9 が対象にしている担保物件は、動産(personal property)だけです。不動産担保権は別の法律が規制しているようです。動産には有形(tangible)と無形(intangible)なものがあり、UCC Article 9 はその両方を対象にしています。無形担保物件には、売掛金・投資証券・受取手形等があります。商業上の不法行為(tort)から得た損害賠償請求権にも担保権設定ができるようです。
ただし、USCPA の問題の多くは、有形動産を対象にしていますので、単純化のため以下では、有形動産に話を絞ります。
参考
このPDF(英語)は非常にわかりやすいです。これから私が書く文章を読むよりこれを読んだほうがいいかも・・・。(多少、日数が Wiley の記述とは異なりますが、PDF が書かれた時期がやや古いのかもしれないです)
アタッチメント
いくつかの条件がそろって、抵当権が法的効力(enforceceable)をもつようになることをアタッチメント(attachment)と呼びます。
条件は3つあります。
- 抵当権者(=債権者)は、抵当権設定者(=債務者)に何らかの価値(value)を渡す
- 抵当権設定者は、抵当物件を所有または占有している
- 抵当権者が抵当物件の占有を取得するか、あるいは抵当権設定契約書(security agreement)を書面で用意し、抵当権設定者が署名する。
これらの条件をすべて満たしたとき、抵当権(security interest)がアタッチされます。
パーフェクション(perfection)
アタッチメントによって、抵当権者(債権者)は抵当権設定者(債務者)に対する抵当権を取得します。しかし、同じ物件に複数の抵当権が設定されることがあります。このとき高い優先順位を取得するために、抵当権をパーフェクト(perfect)することができます。
パーフェクションは原則として次の2つのいずれかの方法で達成できます。
- 占有を取得し、他の抵当権者に通知すること
- 融資報告書(financing statement)の登記
抵当権を占有によってアタッチした場合は、あとはその事実を他の抵当権者にさえ伝えれば、パーフェクションが成立するわけですね。登記も他の抵当権者への通知という意味を持っています。どうやら法律は、権利をはっきり周知させようとする者に対して報いることにしているようですね。(Statue of Fraud で書面での契約が優遇されるのも同じアイディアかもしれないですね)
優先順位
問題になるのは、同一の抵当物件に対して抵当権を有している人たちの間での優先順位です。次のようになっています。
- パーフェクトされた者同士では、登記かパーフェクションの早いほうが勝つ
- パーフェクトされているほうが、されてないものに勝つ
- パーフェクトされていない者同士では、アタッチメントが早いほうが勝つ
- 抵当権がある者(アタッチメントされている者)が、ない者に勝つ。
まあ、常識的な内容ですね。
最強の PMSI(purchase money security interest)
これだけなら話は簡単なのですが、実はワイルドカードが潜んでいます。その名もPMSI(purchase money security interest)。これは商品の購入者に購入資金を貸し付けた債権者の抵当権のことです。ある条件のもとこの抵当権がアタッチされると、他のすべての抵当権を打ち負かすことができます。つまり、たとえ先に登記されているパーフェクトな抵当権が他にあっても、それに勝てるのです。最強の抵当権ですね。
購入目的によってこれはいくつかに分かれます。
- 個人目的使用資産に対する PMSI (PMSI in consumer goods)
- 棚卸資産に対する PMSI
- その他資産に対する PMSI
1. 個人目的使用資産に対する PMSI (PMSI in consumer goods)
購入者=債務者=抵当権設定者が個人使用目的でその商品を購入した場合です。この場合、上での述べたパーフェクションの例外として、抵当権のアタッチメントと同時にパーフェクションが成立します。
2. 棚卸資産に対する PMSI
最強になるためには、
- 他の抵当権者に通知を与えること
- 購入者=債務者=抵当権設定者が商品=抵当物件を占有する前に、登記すること
が必要です。
2. その他資産に対する PMSI
購入者=債務者=抵当権設定者が商品=抵当物件を占有してから、20日以内に登記します。
さあこれで、あなたは、最強の抵当権者になりました。これで、債務者が不履行に陥っても安心ですね。どんと来い!
抵当権者と抵当物件の購入者の間の力関係
さて、一定の条件を満たしてパーフェクトされた PMSI は、抵当権としては最強になりました。しかし、敵は他の抵当権者だけではありません。実は、抵当権設定者が、抵当物件を他の人に売ってしまうことがあります。そうするとその人は、抵当物件に対して、所有権を持っていますが、もとの抵当権者に対しては何の義理もありません。この場合、抵当権者と購入者、どちらが強いでしょうか。
抵当権者(アタッチメントなし・パーフェクションなし) vs 購入者
これは当然、購入者の勝ちです。抵当権は法的効力がありませんから、(潜在的)抵当権者はその商品に対して何もいえません。
抵当権者(アタッチメントあり・パーフェクションなし) vs 購入者
これは購入者が、その商品に抵当権が設定されていたかどうか知っていたかどうかで扱いが異なります。知らなかったら(善意)、購入者の勝ちです。しかし、知っていて(つまり承知の上で)購入したのなら、抵当権者の勝ちです。
抵当権者(アタッチメントあり・パーフェクションあり) vs 購入者
パーフェクションの本質は、抵当権の存在を関係者に周知させることです。このケースでは、購入者は商品に設定された抵当権の存在をたとえ知らなくても、抵当権者に負けてしまいます。
しかし!
さすが法律です。これにも例外があるのです。パーフェクトな抵当権に購入者が勝てるケースが2つあります。しかも、このケースは例外とはいえ、頻度は一番高いかもしれません。なので、実質、購入者最強??
次の2ケースです。
1.通常の商取引の中で購入した購入者(buyers in the ordinary course of business)
売り手がその商品を通常のビジネスとして取り扱っている場合です。お店に出かけていって商品を購入する例がこれにあたります。要するに、一番普通の売買ですね。このときの購入者は最強で、たとえ抵当権の存在を知っていても、勝てます。
2.個人目的使用資産に対する PMSI (PMSI in consumer goods)における抵当物件を購入した善意の購入者
この場合、抵当権者は負けてしまいます。しかし購入者に対抗する方法もあります。購入の前に抵当権を登記すればいいのです。この場合は、購入者は抵当権について知っているとみなされて抵当権者に負けます。
まとめ
なぜごく普通に善意で商品を購入した人たちが抵当権に関してこんなに優遇されるのはどうしてでしょうか。それは、取得した商品に抵当権が設定されているかどうか不安を感じることなく、安心して買い物ができるようにするためです。そうすることで、商取引を円滑にし、経済を発展させることができます。
この考え方は、コマーシャルペーパーにおける Holder in Due Course の保護の背景にもあります。
そもそも契約に関して成因が存在しない贈与契約のようなものは法的効力がない(=法の保護が与えられない)というのもそうですが、どうやら英米法では、商取引の円滑化というものを法の重要な目標にしているようです。非常に実務的な考え方ですね。